RICOH ART GALLERY, 東京
個展, 2022/3/19~4/9
ここに、バルーンはない。
RICOH ART GALLERY では、パリを拠点に活動する写真家・オノデラユキの個展 「ここに、バルーンはない。」を開催いたします。本展は、8 階と 9 階の二つのフロアを使用して、 StareReap による立体印刷の最新作に加え、オノデラ自身がこれまでの作品からセレクトした作品から構成された展覧会となっています。
StareReapによるリコーとのコラボレーションは、昨年、2021 年の秋にオノデラが RICOH ART GALLERY の展覧会を観たことが契機となってプロジェクトがスタートしました。新しいプリントテクノロジーである StareReap は何を目指しているのか―その意図を瞬時に感 じ取ったオノデラは次々とリコーの技術者に質問を投げかけました。短時間ながらも濃密な やり取りの末にフランスへ帰国したオノデラは、本格的に今回の新作について構想を始めます。 自由な渡航が難しい状況下においても、オノデラとリコーはオンラインでの打ち合わせや、 試作プリントのやり取りを重ね、StareReap による新作を完成させました。印象的な展題 である「ここに、バルーンはない。」について、作家は自身で次のように語っています。
··········大きく拡大された銀塩写真の粒子は砂目のように荒く、そのプリントのざらついた表面上に違和感際立つStareReapプリントをぬらぬらと被せ次元を飛び越える。
それは私にとって「溶けて無くなった彫像」の不在を呼び戻すような行為なのだ。「溶ける」をキーワードに溶かしたオブジェをデジタルカメラで撮影し、さらに時の流れの重さを積み重ねるように、その溶解物中に数多のイメージを内包させる。StareReapプリントによる滑らかではあるがレリーフのような立体的で厚塗りの絵の具のようなカラー・イメージ、それと現在を表したモノクロプリント。そのふたつの衝突と融合。
その場に居合わせているかのような等身大のプリントは7点連作として並び、RICOH ART GALLERYの円形空間をパノラマとしてパリの広場をそこに現出させる。プリント上に移植された異形のイメージは時と場所の混濁とイメージの飛翔を促すだろう。
今回のRICOH ART GALLERYの展覧会ではこの新作と同時に2006~14に製作された »Eleventh Fingre »シリーズ数点を展示する。
« Eleventh Finger »は隠しカメラで人々の仕草や動きを撮影したシリーズ。顔の部分がフォトグラムの技術で隠され、その顔を隠した白いマスクには様々なモチーフが無数の穴で開けられている。穴を通して露出する銀塩写真の粒子と、フォトグラムで焼き付けられたフラットな白い滑面の対比が、新作『ここに、バルーンはない。』と気持ち良く響き合うであろう。·············
7点から成る StareReap によるパノラミックな新作群は、オノデラにとって初めてとなるデジタル カメラで撮影したイメージをベースに制作しています。キャンバスに銀塩でプリントされた支持体 の上に、StareReap によって生成されたコラージュの図像を重ね合わせます。このアプローチに よって、物質的な StareReap のプリント特性を引き出そうとしています。
ここに、バルーンはない。
新作のテーマである、第二次世界大戦中に姿を消した「溶けてなくなったバルーンの彫像」について 思いを巡らすことは、「なぜ溶かさなければならなかったのか」という理由を同時に想像することで もあります。7 点のプリントは、このところ激しさを増す世界情勢にオーバーラップするように、 私たちに想像力の重要さをひときわ強く問いかけます。
プレスリリースから抜粋
参考文献:オノデラユキ ー 不在の表象、あるいはメタ・ピクチャーへの志向
評論/山本和弘/展覧会「ここに、バルーンはない。」Ricoh Art Gallery, 2022年3月
ここに、バルーンはない。, Camera, 11番目の指, 世界は小さくない─1826