ザ・ギンザ スペース, 東京

個展, 2020/9/8-11/29

“FROM Where”

オノデラユキの初期の代表作「古着のポートレート」が発表されたのは1995年。2020年は初出から四半世紀の節目にあたる。昨年そのことに気がついたとき、このタイミングで「古着のポートレート」を一堂に展示し、時を経ても色あせないタイムレスな作品の価値を世に問うてみたいという思いが沸き起こった。
私の提案に対し、オノデラは「時の審判が下されるスリリングな経験」と言いながら快諾してくれ、期待以上の解答を投げ返してくれた。ザ・ギンザ スペースの天井の高低差を活かして手前の天井が低い部屋を赤い光で満たし、奥の天井が高い部屋に「古着のポートレート」を二段掛けする、更に奥の展示室からエレベーターホールに抜けるドアを半開きにし、そこからも赤い光が漏れてくるという展示プランだ。赤い光は暗室を暗示しており、そこにカメラを被写体にした「camera」を展示することで、写真が生まれてくる象徴的な場が生成した(周知のように、オノデラは未だに銀塩プリントを手焼きする数少ない作家である)。そして仮設壁で緩やかに二つの空間を区切ったことにより、手前の赤い光と奥の白い光の対比が際立ち、奥の部屋には礼拝堂のような静謐な空気が流れ、古着たちが天に召されていくように感じられたのだった。これもよく知られたことだが、「古着のポートレート」はクリスチャン・ボルタンスキーの個展「Dispersion (離散)」(1993年)で展示されていた古着を10フラン払って袋一杯持ち帰り、モンマルトルのアパルトマンから見える空を背景に撮影した作品だ。作品が死の気配を漂わせるところはボルタンスキーに通じるが、ボルタンスキーの陰鬱さに対し、オノデラの作品では飄逸味が勝っている。古着たちが昇天するように感じられたのも、根底に乾いたユーモアがあるからだろう。
さらに幸運なことに、本展は新宿のユミコチバアソシエイツ(YCA)との共催となり、YCAではオノデラの最新作が紹介された。オノデラの出発点「FROM Where」と、四半世紀を経た現在地「TO Where」とを同時にご覧に入れることができたのは望外の喜びである。コロナウイルスの影響により一時は年内開催が危ぶまれもしたのだが、会期は変更になったものの、予定通り節目の2020年に開催できたことも幸甚であった。優れた作品には、時も味方してくれるのであろう。

ザ・ギンザ スペースディレクター 樋口昌樹
展覧会カタログ「オノデラユキ FROM Where」より

 
古着のポートレート, Camera

 

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Paris