ヴァンガード・ギャラリー, 上海
個展, 2026/5/9 – 6/27,
« 散点 »
上海ーパリ
本展は、2025年に「上海」と「パリ」という二つの都市で撮影された銀塩写真を出発点とする。上海は作家が20年来、断続的に滞在を重ねる街であり、パリは30年以上にわたり生活の基盤としてきた都市である。しかし、ここに並ぶ作品群は、それぞれの都市が背負う歴史や文化を主題として描き出すものではない。むしろ、二つの都市は等価な「散点」として提示され、その物理的・文化的距離は、イメージの断片として解体・再構成される過程で溶解していく。
作家は暗室を実験場とし、銀塩写真の規範的技法を意図的に撹拌することで、モノクローム・プリントに新たな相貌を与えている。露光、現像、定着、あるいは意図的な化学的変質──それらのプロセスを経て生み出される画面は、写真の皮膚に刻まれた未知の質感であり、いわば「写真の彼方」へと到達しようとする試みである。この行為は、時に「反写真」的とも「反絵画」的とも呼びうる、両義的な創造の領域を開いている。
一見、ペインティングと見えるその表面は、暗室の光と影、化学反応によって生成されたフォトグラムによるものだ。 また、それらの銀塩プリントはキャンバス上にコラージュされ、時に古着や古雑誌のページが層のように重ねられる。ここでは、写真として撮影されたイメージが、物質としての厚みと触覚性を獲得し、記憶の考古学的な層へと変容している。
作家は、都市を「巨大なテキスト」あるいは「原寸大の地図」と見なし、そこには「閉じながらも八方に開かれたメディア」としての矛盾が内在すると語る。そのような都市を写真で「写し取る」ことは困難であり、むしろ作家の実験的アプローチは、都市が形にとらえにくい流動体であることを認めた上で、遊び心をもって「奇妙な場所」を構築し、「完結しない時空間の物語」へと接続する試みなのである。
本展は、単なる二都市の比較や、ノスタルジアに回収されない。むしろ、写真という媒体そのものを拡張し、イメージが「場所」から「存在」へと変容する瞬間を捉え、鑑賞者に散在する点と点とを自ら結びつける権利を手渡す、参加型の地理学として機能する。
Darkside of the Moon, Parcours-空気郵便と伝書鳩の間, 他










