Darkside of the Moon
2020-, ゼラチンシルバープリント, ドリップペインティング, キャンバスにコラージュ
写真家としてのオノデラの制作と思考は、一貫して、世界の模倣、写し、記録装置としての写真のありかたに揺さぶりをかけるような、〈写真の存在論〉や〈カメラの存在論〉の探究に捧げられてきた。本展出品作品「月の裏側」は、コラージュ、ペインティング、フォトグラム、ドリッピングといった行為を刻印した作品である。「月の裏側」が存在することは自明であっても、常に一方向からは見えない存在であるのが「月の裏側」である。オノデラ曰く「このタイトルをつけるきっかけとなったのは、中国が月の裏側に探査機を着陸させロボットを走り回らせて調査をするという計画を知ったことだった。月は太古の昔から眺められ、あるいは凝視され多様な文化と文明を育んできた。月が球体と認知された後でさえ、闇夜に黄色く光る球体をまるで平らな円盤を見るかのように振る舞ってはいないだろうか。それなのに、我々からは見えない側に飛んで行ってそこをロボットが走り回るなんて、まるで小説のようではではないか。しかもそのロボットの名前は『玉兎』という名なのだ」と語っている。「私のこのシリーズ、『Darkside of the Moon』の被写体はもちろん月の裏側などではなく、この地球上の出来事である」(オノデラユキ)。3点一組の作品「月の裏側」は、風景の一部がそれぞれ切り取られ、その切り取られた部分が隣り合わせとなった作品風景にコラージュされ入れ替えられていく。「コラージュされた写真同士が『切断』と『溶解』を繰り返す。これによって普段は我々には見えない視覚と認識の裏側を見せられるような、目眩を起すような場が出現する」(オノデラ)。「宇宙のはじまりとおわり」を想起させるこの作品は、多元宇宙論に基づいた「ワームホール」を通して別の宇宙へ反転できる可能性を示唆している。
文:飯田高誉
from the exhibition “2021 A Space Odyssey Monolith_Memory as Virus-Beyond the New Dark Age” at GYRE, Tokyo, 2021