Chronophotography

2023–, 2.5D(StareReap) print on acrylic board, 19.5 x 69.5cm / whole by 9 pieces, 36 images 19.5 x 625.5cm

« Chronophotography »、「連続写真」というとフランスの生理学者エティエンヌ=ジュール・マレー、Étienne-Jules Marey(1830 -1904)の熱烈な研究を想起する。
彼の発明品でも特に1882年に作った、連続した動きをまとめて写し撮ろうと発明した写真用ライフル銃は実にユニークだ。現代のカメラマンは写真を撮る行為をシューティングとも言うではないか。究極的に彼の興味は人間や動物、昆虫などの動きそのものであって、彼の数々の発明の目的は動きを解体し視覚化させることでさらに観察を深めるという点にある。
しかし彼の研究に名付けられた数々のタイトル、アニマル・マシン、探索靴など(La Machine animale, Chaussures exploratrices…)にはSF小説に直結するようなユニークさがある。いやこのような生理学的研究と写真技術との統合こそが、奇想天外なSFを作り出したのかもしれない。
さて、時代はそれより少し下り1902年。パリの街角に長さ30mもある大きな飛行船が墜落した。

私のアトリエから歩いても近いメーヌ通りとガイテ通り(Avenue du MaineとRue de la Gaîté)が交差する辺りだ。その飛行船はパリ郊外を出発し試験飛行をしていたが、突然炎がガスに憑り制御不能となって墜落し歩道に衝突した。そのPAXという名の飛行船の発明家Auguste Severoと機関士Georges Sachéの勇敢なチャレンジャー二人が命を落とした。

私はその墜落劇の街路を連続写真として収めることにした。マレーのように撮影対象が動くのではなく私自身が動く、移動しながら写真を撮るのだ。もちろんその通りには飛行船が墜落した当時の面影などは残っていなさそうだが、それでも墜落した地点に向かってゆっくりと移動してみた。ある地点でシャッターを切り、自分で定めた距離を移動しまたシャッターを切る。同じ動作を続けて36枚撮ったところで終了した。
さてその撮影と同時に私は飛行船の墜落に立ち会ったかのように、その衝撃を想像しながらオブジェを作り始めていた。ここからはマレーの生真面目な研究からはほど遠い自由勝手な創作になる。空に浮かぶ飛行船に因み、空を飛ぶ鳥の骨を材料にした。飛行船の発明家が夢見た鳥だ。
オブジェは鳥の骨一本から始まり、次々と一本づつ継ぎ足しては写真に撮り記録していく。少しずつ変化し最後には複雑なオブジェになっていくのだが、そのとき常にMovementを意識しながら作り上げて行った。しかし、ここではマレーの捉えた動き、現実の揺るぎない動きではなく、その動きはあくまでも私の身体性から繋がり現れた造形となっている。

私は19世紀から20世紀の初頭に現れた発明や出来事など、つまり写真、アニマルマシーン、連続写真、アニメーション、気球、飛行船などのエスプリとその時代をひとからげにして作品としたかった。
だからこのシリーズはデジタルカメラで撮影し、リコーの最新技術である2.5Dプリントで仕上げているにも関わらずいくつかのプロセスで過去の技術を擬態化させている。
たとえば、ポジに対するネガ、街角の光景はすべて現実の階調を反転させたネガとなっている。そしてそのネガの風景をさらに鏡で見たように左右も反転させてみた。現実から少しズレたような平行世界だ。私にとってこの反転という現象は過去の写真技術の中核でもあると思っている。デジタル技術では写真を生成するプロセスで反転を体験するタイミングはないが、左右の反転については一歩町にでればあらゆるウインドウの反射で目にしているものだ。36枚という数もデジタルカメラでは意味のない数字には違いない。
このシリーズではアクリル板に2.5Dプリントを施しているが、従来のインクジェットプリントではこのような滑らかな素材ではインクが流れてしまい、イメージを定着させることができない。紫外線を投射してインクを硬化させることが出来るこの2.5Dプリントの技術だからこそ現実化できた。
光を通過する透明アクリル板に定着されたイメージが36点ずらりと並ぶ。光はイメージの部分もわずかに通過し、ネガフィルムのように宙ぶらりんの実在を表象している。
これはちょっと想像してほしいのだが、イメージ上の主人公青色のオブジェも階調を反転させている、だから私が作ったオブジェは実は燃える炎のようなオレンジ色だった。

オノデラユキ   2023/04/20

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Paris