オルフェウスの下方へ 2. 不思議な距離
2006, ポラロイド, 全23点
ヨーロッパのあるホテルで起きた不可解な失踪事件の記事に端を発した作品。本シリーズでは、時間と空間の移動がテーマとなっているが、〈Roma—Roma〉とは異なり、作品にはオノデラによって構築された虚と実が交錯するサイドストーリーが存在する。事件の2年半後、オノデラはその事件の起きた同じ部屋に宿泊し、真相を追うべく行方不明になった人物に思いをはせる。オノデラの推理は、18世紀に記されたある島の伝説をヒントに、行方不明になった人物はこの部屋の真下、つまり地球の裏側に移動してしまったという奇想天外な結論に至る。その伝説とは、18世紀のイギリス船の航海日誌に、太平洋の島に住む先住民マオリ(Māori)の長の口述として記されたもので、280年前の1726年に地下世界からやってきたという予言者が島に現れ、西洋人の来訪を島民に告げたという。その島が、現在のニュージーランド北島であり、ホテルから見れば12,700キロメートル真下にあたる偶然に気づいたオノデラは、その推理に従って、ホテルの天井の高さから床を見下ろすアングルで室内を撮影し(「1.失踪者の後を追って」)、その後、ホテルのある「北緯40度25分51秒/西経3度42分28秒」地点から、「南緯40度25分51秒/東経176度17分32秒」地点にある島へと移動し、その場所の風景を証拠写真としてポラロイドで撮影した(2.「不思議な距離」)。ポラロイドを貼った手漉きの台紙には、伝説が航海日誌に記録された18世紀当時の活字で緯度・経度を示す数字が印刷され、ホテルの室内を写した大判プリントには、その数字をフォトグラムの技法で焼き付けた。